10月5日、風の丘HALLで、オペラ「道化師」をみた。風の丘HALLは、千葉市の新検見川駅から徒歩10分ほどのところにある小ホール。小空間オペラTRIADEがこの場所で意欲的にオペラ公演をしている。
歌手はみんなとてもいい。カニオの上本訓久は実に美声で表現力も豊か。「衣装をつけろ」のアリアも絶品。トニオの押川浩士も豊かで劇的な声。前口上も素晴らしかった。ネッダは江口二美。美しい声であるだけでなく、劇的な迫力もあるし、清純さもある。ペッペの笹岡信一郎も表現力があり、声も整っている。シルヴィオを歌った党主税もまったく文句なし。村人も子どもたちもしっかり歌っていた。
みんなの演技も見事。真に迫った演技。舞台上の色遣いもおもしろい。ちょっと表現主義的な、しかしイタリア的に明るくてドラマティックな舞台で、ドラマとしても楽しめた。
オーケストラはつかず、瀧田亮子のピアノ。とてもしっかりした音色豊かなピアノだった。ただ、ちょっと難を言うと、全員が声の威力を聞かせようとして、常に全力投球をしているように聞こえた。もう少し弱音がほしいし、声に大きさの変化もほしい。そうした操作が増えると、もっと表現の幅が出ると思った。
演出は三浦安浩。音楽が始まる前、村人たちの黙劇が入る。屈託なく楽しそうに子供らしい遊びをする人々。ピストルを持ったやくざ風の男も登場するが、このピストルがおもちゃであることがのちにわかる。
ボールが意味ありげに使われる。子どもたちは無邪気にボールで遊ぶ。大人たちから子どもたちにボールがパスされる。白い服を着たネッダがボールを見つめる。おそらくボールは、「無垢」のしるしだろうと思った。最後、カニオは嫉妬のゆえにネッダとシルヴィオを殺した後、絶望した表情でボールを見つめ、それを自分の頭に押し付ける。無垢を失ってしまった自分に気付いて絶望を覚えているのではないか。
「道化師」は、いわば子どもの無垢を失ってしまった大人の物語だといえるだろう。現実ではない空想の世界に遊ぶのではなく、カニオは、道化芝居という愉快であるはずの舞台に無粋な現実を再現し、自由な魂を否定しようとする。その無念さが胸に突き刺さる。
最後の場面には私はかなり興奮した。レオンカヴァッロにふさわしい劇的な迫力。歌劇の力を改めて思い知った。
しかし、それにしても、小空間オペラTRIADEという集団はこれほどまでに高いレベルの公演をやってきたのだろうか。私は初めてこの集団の公演を見たが、恐るべきことだと思った。同時に並大抵の努力ではなかっただろうとも思った。
第二部は、第一部で村人たちの合唱に加わっていた若手歌手たちによるオペラギャラコンサート。若々しい声で好感が持てるが、もちろん、第一部で役を歌った人々に比べると、声が熟しておらず音程が怪しかったり、表現が甘かったりする。だが、素質についてはみんな十分。最後は千葉ジュニアオペラ学校卒業生の歌。「好きさ 好きさ」と「花は咲く」、とても楽しく終わった。