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Channel: 樋口裕一の筆不精作家のブログ
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ラ・フォル・ジュルネ東京2025 初日

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 2025年5月3日。今年もラ・フォル・ジュルネが始まった。2005年、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンが始まったとき、私はアンバサダーとしてこのイベントにかかわったので、その関係もあって、これまで有料コンサートだけでも530聴いてきた。今年も3日間通う予定。円安のせいか、ヨーロッパからオーケストラが来日せず、外来演奏家の数も限られているが、それでも今日は名演奏をいくつか聴くことができた。

 今年のテーマは「メモワール 音楽の時空旅行」とのこと。4つのコンサートを聴いたので、簡単に感想を記す。

 

リヤ・ペトロヴァ(ヴァイオリン)、フランソワ=フレデリック・ギィ(ピアノ)、アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)

 朝10時からのコンサート。最初にペトロヴァとギィによりベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」。ペトロヴァは昨年フランクのソナタを聴いて、そのすさまじい表現に驚いたのだったが、「春」については、朝早くて体が温まらないせいか、意外に普通の演奏だった。もちろん、すがすがしくて切れが良くて心が洗われるような見事な演奏なのだが、私はもう少し感動を期待していた。クニャーゼフが加わってのベートーヴェンのピアノ三重奏曲第5番「精霊」(このブログではずっと「幽霊」と呼んできたが、プログラムに倣ってこう表記する)はずっと生気にあふれていた。クニャーゼフのロマンティックで強い表現もいいし、ペトロヴァもそれに負けずに強い音。ギィはかなり知的な感じ。とてもよかった。

 

杭州フィルハーモニー管弦楽団 ヤン・ヤン(指揮)

 シューベルトの交響曲第7番「未完成」とベートーヴェンの交響曲第7番。「未完成」を聴いた段階では、正直言って退屈な演奏だと思った。指揮のヤン・ヤンは意識的なのだろう、無理やりロマンティックにしようとせずに正攻法で演奏。リズムがぴたりと決まって好感が持てるのだが、あまりおもしろくない。ただ、私は子どものころから「未完成」が好きではないので、退屈に感じたのは、私自身が原因なのかもしれない。

 杭州フィルは思ったよりもずっとうまい! 音程が良く、弦の音がぴたりとそろっている。木管楽器もとてもきれい。金管楽器はなんだか自由奔放な雰囲気があって、時々ほかの楽器とずれている気がするが、音のエネルギーはすごい。

 ベートーヴェンになって俄然おもしろくなった。が、それでも、テンポを動かさず、誇張はせずに、じっくり演奏。だが、徐々に音楽自体が高揚していく。終楽章は大躍動! 金管も、ちょっとバタバタした感じがあったが、ともあれ大活躍。

 中国共産党に指導される統制の取れた部分と、きっと本来の中国人の持っている自由奔放な部分が重なり合って、とても魅力的なオーケストラになっている。ヤン・ヤンという指揮者ももしかしたらすごい人かも。

 

オリヴィエ・シャルリエ(ヴァイオリン)、ダヴィッド・カドゥシュ(ピアノ)

 ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」。これはすごい演奏だった。素晴らしかった。感動した。

 まずシャルリエがいい。音の強弱のニュアンスが絶妙。とりわけ弱音が本当に美しい。単に美しいという以上に、魂の奥底にまで響くような音。その音によって緊迫感にあふれ、歌心にもあふれた音楽を作り出していく。

 カドゥシュのピアノも素晴らしい。一つ一つの音が息づいている。一つ一つの音が小さな生物のように命を持ち、表情を持っているのを感じる。終楽章は、音そのものが喜びにあふれている気がした。

 この二人がまるで相撲の名勝負のように渡り合う。息をつかせぬほどの緊張感。これまで「クロイツェル」の名演は何度も聴いたような気がするが、今回はそのトップに近い演奏だと思った。心の底から感動した。

 

ヴィクトリア・シェレシェフスカヤ(メゾソプラノ)、レナ・シェレシェフスカヤ(ピアノ)

 ピアノのレナと歌のヴィクトリアは母と娘らしい。娘が10歳の時に母がソ連からフランスに移住。フランスとロシアの愛にまつわる歌曲を集めたコンサートだ。私はこの演奏家を今回、初めて知った。

 曲目は、フォーレ「月の光」、リスト「おお、私が眠るとき」、ショパン(ヴィアルド編)「踊り」、コネッソン「島」、シャミナード「愛のとりこ」、ドビュッシー「ビリティスの歌」より、シャブリエ「蝉」。そのほか、グリンカ、シャポーリン、ラフマニノフ、チャイコフスキー、メトネル、スヴィリードフの歌曲。知っている曲がいくつかあったが、ほとんど知らない曲。

 しっかりしたメゾの声で堅実に歌う。いい歌手だと思う。ただ、曲のせいもあるかもしれないが、感動するとまではいかなかった。私としては、同じ作曲家の同じ趣向の歌曲を何曲か歌ってくれないと、その世界に入り込むことができない。一人の作曲家についてほぼ1曲ずつ歌われると結局、世界が伝わらない。プログラム編成を残念に思った。


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